Tsunami Times
病室から
点滴の規則正しい音が時間を刻む。阪急電車の走る音が時折り聞こえる。点滴を替えに来た看護師さんについでに南側にある窓のカーテンを開けてもらう。昨日の朝焼けが見事だったから今日も拝もうとの算段。安威川を挟んで生駒山まで見渡せるから眺めはいいが、空が白み始めてみると、どうやら今日は曇りのようで朝焼けはのぞめそうにない。二度目の病室の朝。
それにしてもやっぱりこの時間帯の遠景はそれがどこだろうと元木にメキシコの夜明けを思い起こさせる。
メキシコならちょうどモーニングコーヒーを持ったスタッフに起こされる頃。あるいはワクワクし過ぎてその前に起きてしまい、ストレッチしてみたり、タックルボックスのプラグを入れ替えたり弄ったりしている頃。
その後、コーヒーマグを片手に半屋外のダイニングの決められたテーブルに向かい、ビュッフェ方式のモーニングを食べる。トマトジュースをグラスに注ぎ、カリカリに焼いたベーコンその他を皿に取り、野菜やらハムやらが入ったオムレツをチーズ抜きでオーダーし、目の前で焼き上がるのを待つ。
食べ終えておかわりのネスレを飲んだら、いそいそと部屋に戻って準備。タックルを抱えて、ボートが繋がれた水辺へと向かうカートにその日の同船者と乗っていよいよ出発、と思ったら、突然「コールブルー」の緊急館内放送が響き渡って妄想が遮られた。
いつの間にか外は雪。
4日目の朝、生駒山には厚めの雲がかかっている。見事というほどではないけれど、薄オレンジ色の朝焼けが少し、やがて雲の上から御来光。眩しい。昨日あれだけ降ったのにほとんど積雪なし。今日は天気が良さそうだ。
外の景色を見渡せる窓があるっていい。うちの家にはそれがなく、唯一リビングにある窓からは向かいの家と用水路を隔てた隣のマンションの隙間からわずかに空が見えるだけ。その窓もかなりの頻度で妻が雨戸を閉めてしまう。室内の保温がその理由らしいが、なるべくなら外が見えるようにしておいて欲しいという俺の要望は、最低限しか叶えられない。
高校の時に住んだ、祖父と祖母の家(つまりは親父の実家)は、谷川が作った急勾配に沿って走る道路に面していたから、おかしな作りの三階建てだった。それでも裏側は開けていて、吉野川にそそぐ谷川はもちろん、小学校や幼稚園、畑や田んぼ、国道の向こうには吉野川の竹林、そのまた向こうには阿讃山脈が見渡せた。
一階はひい婆さんが生きていた頃の彼女の部屋を含め、ほぼ納屋状態だったからか、何故か一階とは呼ばす単に「下」と呼び、二階を「一階」三階を「二階」と呼んだ。道路に面しているのが「一階」だったし、斜面上に建っているから「下」は地下ではなかったし、まあ、それは自然の成り行きだったのかも。
それはさておき、一階の裏手に張り出た便所へと続く縁側越しの風景と、二階からの風景はなかなかのものだった。それ以外に長所は見当たらなかったけど。
余談だけれど、その一階から二階へと続く木製の通称はしご段は、急傾斜に加えて経年で信じられないくらいの見事な艶があって、つまりは滑りやすく、子どもの頃の親父はそこで滑って大怪我をしたと、何度も何度も祖母に聞かされた。数十年後、一家の住まいとなった借家には玄関から即二階へと続く同じような傾斜の鉄の階段があった。ある日、酔っ払って帰宅した親父をお袋と俺とでおのおの両袖を持ち引き上げようとしたら、絵に描いたように袖から親父の腕が抜けて、ほとんど最上階からガタンガタンと音を立てて見事に落ちた。呆気に取られてしばらく、どうやら無事そうなことを確認した瞬間、笑いが込み上げた。うちの親父は生涯二度の階段落ち経験者である。
今日は日差しが眩しい。景色は拝んでいたいが、たまらずカーテンを閉めた。午後にはまた開けることにしよう。
入院して4日目ともなると、気分も容態も少し落ち着いて来た。そこでブログを書く気になった。病名は細菌性胸膜炎と細菌性肺炎ということになるらしい。レンサ球菌というのがその根源。調べてみたところ乳幼児の鼻咽頭に棲みついているその菌が、免疫力が低下することで感染すると書かれてある。うちにはまさしく幼児がいるから経路はおそらくそこで、それは致し方ないにしろ年末あたりに疲れていたことが主な原因だろうか。要は誰しもそのリスクを負っているってこと。なんにしろ生まれて初めての入院。期間は2週間の予定。
インスタの個人アカウントにも書いたのだけれど、参考までに経緯を少し。
2週間ほど前、寝返りをうった際に右胸に痛みが走り、神経痛か肋骨の疲労骨折かと高を括っていたら日曜に熱が出て、火曜日は仕事に出たものの、その晩には右胸部が痛くて眠れなかった。翌日たまらずかかりつけの病院へ赴き、レントゲンとCTで検査したところ、右肺に水が溜まっていて炎症もありそうだから、即刻大きな病院へ行って下さいと言われ、吹田の済生会の救急外来へ自らの運転で向かう。
再度レントゲンとエコーで水がある場所を特定し、背中から針を刺して水を抜くという荒療治。こうなったらともちろん覚悟は瞬時に決めたものの、局部麻酔したとは言えさすがにちょっと怖かった。その処理直後の酸素の値が安定せず、痛みも酷く、即入院と相成りました。いやはやまいった。今後は抗生剤の点滴で治療ということになる。
ちなみに入院したその日はかかりつけの病院と入院した病院で三度のPCR検査、日曜に自宅でした抗体検査を含めると数日間に四度の検査をしたということになる。
思えば年末あたりから体調悪かったのはそのせいかも。それに先週だったか痰に血が混じってた。その時は歯茎の何処かから出血したものと思っていたけれど、あれはそうではなかった可能性大。
今は動いたり、咳払いをしたりすると痛みが結構あるものの当初のようなものではなく、また熱はあっても37度台でずいぶん落ち着いた。
そんなわけで、関係各方面にはご迷惑をおかけします。facebookとインスタでは多くの励ましもいただいた。特に初売りでご予約のHand Drawn Calaberaをお待ちの皆さんには、退院以降まで待っていただかないといけないことになった。それから魚矢の受注会にフィッシングショーも欠席。ただ、そこはいつも一緒に参加する盟友アカシブランド明石と同じく盟友レスイズモア髙橋に一任するのでブースだけはあるはず。彼らに感謝。
魚矢さんの受注会ではSweepy J DPの新色Bloody Head [BH]とVintage Clear [VCL]、ブランニューアマガエルDBのBloody Head [BH]とTobacco Sunburst [TSB]、それから恒例のレスイズモアとのコラボ企画でNiva Rant DP – Rant Prop、Mighty Arrowzinho DP – Snip Toneのそれぞれ各一色がご予約開始。
アマガエルは以前のヴァージョンと同じくdel Blanco、つまりは発泡ウレタンです。ただし、リアの毛鉤を廃してステンレスの足ひれプレートを一対装着。フラッシングとノイズのアピールを増すも、動きはそのまま、いやかえってキレが増したかも。うちのタックルで十分キャスト可能(もちろん多少の工夫は必要。1ozのプラグと同じ投げ方をすれば目の前に落ちたりということもあり)で、50lbのラインに30lbのナイロンリーダーでもアクションします。
カラーは最近よく塗る、Bloody Head [BH]とTobacco Sunburst [TSB]。BHは黄変したレッドヘッドを意識したもの。素材が発泡ウレタンなので、TSBは木目がベースではなくシルバーベース。フィッシュボーンやソニックマスターのTSBと同じ。
その日は小さなベイトがピチャピチャやってて、それを狙ってバスがボイルしている、あるいはハングからポトリと落ちる虫を明らかに食っている、それなのにこっちが繰り出すプラグには一向に口を使ってくれない。そんな時、Tsunami Lures最小最軽量のアマガエルの出番。たとえ出番は少なくとも、年末リリースのSonic Vitazinho(まだまだ在庫あり)と並んでいざという時に頼れる存在。
Sweepy J DPもニューカラー。アマガエルと同じく黄変したレッドヘッドを思わせるBloody Head[BH]、黄変したクリアカラーのVintage Clear[VCL]。
アマガエルDB、Sweepy J DPともにシンプルだけれども妙味あるヴィンテージイッシュなカラーリング。樹脂なのに生々しいリアルな装飾とはまた別種の有機的居ずまいを備える。
Sweepy J DPのBHはABSボーンが素材で、VCLはポリカ素材でリフレクター入り、これによりアクションのフィーリングもサウンドも変わります。
いずれもフィッシングショーには展示予定なので、時間を作ってUOYAの中のTsunami Luresブースへ来ていただけると幸甚。俺がいないブースも珍しいし。ぐっと乗り出して眺めていると、たぶんレスイズモア高橋が一生懸命説明してくれると思います。それもまた聞き物。
この頃のことだから、こんな風に仕事は病室まで付いてくるし、最低限の対応も出来てしまうわけで、完全にとはいかないのがたまに傷なんだけれど、それでもギアは数段落とせるはず。とにかく覚悟を決めて極力休むことにします。ほんと言うと、ここ何年かは展示会やら受注会やらのイベントごとが苦痛にも感じていたし、いい骨休めかもしれない。(ジャンボリーだけは不思議と楽しいんだけれど)既に初めての入院を楽しんでしまっている自分もどこかにいる。ただ、それもこれも順調に回復していることが前提ではあるのだけれど。
しかし、面会禁止で息子に会えないのはきついね。
23/01/28