Tsunami Times

  • ボディブロー

     「とおとの上がいい」と言っては、ついこの間まで仰向けの俺のお腹の上で寝ていた息子は、もうそれをしなくなった。たったそれだけのことがちょっとだけ寂しい、初老の親父。

     寂しいと言うと、先頃たて続けに2人の友人を失った。高校の同級生と、一時一緒にバンドをやっていた男。訃報にはもう慣れっこだと思ってはいたが、これは少しこたえた。重いボディブローみたいに。って打たれたことないけど。

     ことにそのバンドをたった一年一緒にやったその男の場合は、レバーあたりに痛烈な一撃をくらった気分。俺と一緒にやったガイアコテカと言う無名のバンドより、おかげさまブラザーズの方が世間的には通りがいいかもしれない。これだって今となればマイナーだけれど当時は有名で、出会った頃は3つ年上のキンタをもちろん「さん」づけで呼んでいた。それがいくらもたたないうちに呼び捨てにするようになって、急速に間柄が接近する。すぐにやつはまるでうるさい兄貴みたいな存在になった。

     ちなみに俺を初めて西表島に連れて行ったのはそのキンタだった。

     キンタとはたった一年でバンドを解消し、そしてまさにうるさい兄貴みたいに、どちらからともなく少し遠ざけるようになった。たまに会えば憎まれ口ばかりたたいた。もう一回バンドやるか?と問われたこともあったけど、そんなわけだから断った。

     病気になったと聞いて見舞いに行ったのはちょうど一年ほど前。弱っているあいつを見てしまうと俺の方が弱ってしまいそうだったので、とても行く気にはなれなかったのだけれど、そのガイアコテカにも在籍していて俺とは古くから音楽を一緒にやっていた岸という男に誘われて、それならと同じくガイアコテカにいたビンちゃんやタカセなんかと数人で出かけた。その時もやつは俺に負けずに憎まれ口をたたいた。俺は妙に安心した。

     それが最後だった。

     でも俺は相変わらず釣りに出かけています。そして歌を歌ったりもする。

     この前は琵琶湖へ。夕日がミステリアスでまるで何かの暗示のようだった。

     スエヒロはこのところ俺のボートのフロントシートで調子がいい。この日も2B2F。二人してこれっきりだったから、計算上、俺はおでこということになります。

     それにしても夕まずめに出たやつは、胸のすくようなバイトだった。久しぶりにあんなのを見た。というか、正確に言うと「聞いた」。55cmは今の琵琶湖なら十分な釣果だ。いずれもCosmo DP。

     こんな風にして俺は今も生きていることを実感している。

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