Tsunami Times
Bad Night & Rock’n Roll
この冬は雪が多いとのもっぱらの噂だったのに、蓋を開ければ今月1度積もったきりで、少々拍子抜けしている今日この頃。少ないと言われていた去年より今のところさらに少ない。
ところで、この冬も我々世代のアイドルがこの世を去るのである。ここ数日俺のSNSはデヴィッド・リンチで溢れている。同一人物の追悼でSNSがこれほどまでに溢れかえることは今までなかった。彼が亡くなったことをショックに感じると同時に、カルトの帝王なんて言われたりもするそんな人物が、こんなにも多くの人々に愛されていたことにちょっとした驚きを覚える。カルトだからこそか。
例えばThreadsなんかには、その人なりの思い入れがこれでもかと綴られていて、おかげで俺はなんと浅はかなリンチファンであったのかを思い知らされた。それなりに彼の映画は観てきたし、ツインピークスにも当然のようにはまったんだけれどね。ちなみに彼が音楽をやっていることさえ知らなくて、あわてて今聴いてみているところ。
よくよく考えてみれば、どれひとつとして映画の筋書きは思い出せないし、どこがどう良いのかなんて語る術を持たない。ストーリーをあまり思い出せないことに関しては、リンチ映画に限らず、実は俺の場合いつものことではあるものの。
リンチの映像は抽象的で難解。それがどうにも観るものを惹きつける。それでも漠然とした映像イメージのようなものは今でもすぐに頭の中で渦巻く。陰鬱で不穏でどろどろした、他人あるいは自分の内側を覗いているような、そんな何か。そこから何か意味のあることを引き出せそうな気はさらさらしなかった。でも、観ているだけで、なんだか得体の知れない優越感に浸れた。生前彼は「ただ感じればいい」と言ったそうだけれど、それなら俺のような見方も案外間違いではなかったのかもしれないなあと今思う。
独特などと言う言葉がまるでちんけに聞こえてしまう、しかし、なぜか俺のような人にもちょっとした親近感を抱かせてしまう、希代の天才よ、安らかにお眠り下さい。いやあ、寂しい。
ショックと言うと、今週末に予定しているライブ。ドラムの岸がコロナに罹ってしまって欠席することが決定的になった。ジャンボリーの時にベースの中島が抜けてしまったのに続いて今度はドラムである。ドラムがいないとなるとどうも迫力不足だし、曲を削るとか、少しテンポを落とすとか、そんな具合に少しソフトで落ち着いた感じにしようかとも思って、メンバーにも提案してみた。
しかし、である。デヴィッド・リンチのことを考えていたら、St. ヴィンセントがエレキギター1本でDig A Ponyを演っていた(興味のある人はYouTubeで検索してみてちょうだい)、そのことがなぜか思い浮かんだ。あれは実にロックだった。リンチの憂鬱と気概がSt. ヴィンセントの反骨心と重なったか。そうしたら、俺は最近ロックを忘れていないかと、そう言う気分がやがて沸々と頭をもたげ始めた。土曜日のソングリストから削るつもりだったDig A Ponyをドラム抜きでやることにしようと思っている。テンポを落とそうと思っていた、Peace, Love & Understandingも元のテンポで演ってみよう。
そうだ、今年はロックで行こう。初心忘るべからず。しかしあくまでナチュラルに。
そうそう、そんな気合いの現れというわけでもないのだけれど、ライブに向けてストラップを新調した。ストラップを買うなんていったいいつぶりか。クラシカルかつサイケなこれをGuild D-25に装着して臨む。そう言えば、その昔、とある音楽雑誌に載っていた、チャーリー・ワッツのインタヴューの一節が好きだ。「最近新しい楽器・器材は手に入れましたか?」の問いに「スネアのヘッドを張り替えたよ」とチャーリー、実にとぼけている。実にロックだ。
Guild D-25はもう二、三年前に松澤オーナーのミリメーターミュージックで手に入れた70’sもの。天下のギルドですから、決してビザールとは言えないものの、ギブソンやフェンダーに比べて影の薄いその存在は、ちょいと異端であることはいなめなく、その中にあってもグレードもさほど高くなく、しかし年を経て音に深みを増しつつあるこいつである。手元に来てからも、サウンドホールのピック傷が増えるとともに、その音に滋味を蓄えた気がする。それまでメインだったJ-45とすっかり入れ替わってしまった。
J-45は若いけれど、これはこれでいい音。ただD-25やいとこに譲ってもらったJ-50とはいかんせん歴史が違う。だからこそ、もっと弾いて育ててやらねばと思って、ここ数日は練習時にD-25と半々で弾いてみているところ。久しぶりに弦をちょっといいのに張り替えたら、手に入れた当時の尖っていて硬かった音に若干の変化が見られてふくよかになった気がする。
ライブがあるおかげで、ギターへの慈しみも蘇る今日この頃なのである。
と言うわけで、土曜日のコーナーストーンバーへどうぞいらっしゃいませ。Koronamuzikとお待ちしています。
25/01/21