Tsunami Times

  • 賜物

     おおよそ8〜9ヶ月ぶりの琵琶湖だったろうか。これだけ空くのも近年にないから、さぞ感動的かとも思ったのだけれどさにあらず。いざ赴いてみれば、以前とほとんど何も変わらない琵琶湖が眼前に開けていて、なんだかほっとした。

     ここは、バス釣りを始めた頃、おおよそ30年余り前から通うフィールドで、その時間の経過からするなら、少々のブランクは割合的に言ってほんの少しでしかなく、それが感動と言うよりは安堵という心の動きとなった、そう自己分析してみる。釣れるから通っていた琵琶湖なのだけれど、いつしか訪れることをありがたいと思うようにもなったということか。

     久しぶりの雨模様に放水はチャンスだし、中潮というのも悪くない。釣れないわけはない、そう踏んだのは釣り人の性だけれど、現場であっさりと裏切られるのも釣り。思ったより濁りが入っていたり、その前の放水始めの絶妙のタイミングを少し外していたりすることがその原因かも。

     それでも午後からのスタートでカミオカお得意のSlapphappy Shad DB – High Appealにまずは一つのショボいバイト。ちょっとした兆し。プラグを取っ替え引っ替え何事もなくしばらくやり過ごした後、水のクリアなヒシモがパラパラと生え始めた場所でカミオカは立て続けに二つのバラし。これまたSlapphappy Shad DB – High Appeal。ポストスポーン特有のフッキングし辛い地味なバイトもしばらくファイトしていたから、追い合わせでも入れていれば取れたのかもしれないが、久しぶりのファイトにまるで余裕なし。1本は結構デカかったように見えたけど。

     曇りの後1mmに満たない雨という予報に高をくくっていたら、その後夕方に土砂降りの雨に遭う。これがジョンボートに溜まった水をポンプで汲み出すほどの雨で戦意喪失寸前。ボートを降ろした場所に逃げ帰る。一目散にと行きたいが、バッテリー駆動ですから、それほど早くはなく、遅々として。幸か不幸かその間に雨が上がった。

     雨後のべったりの凪に抗えるはずもなく、せっかくだからそこでひと流しして帰るつもりで釣りを続行。鏡のような水面にプラグを浮かばせることほどワクワクすることはない。それだけでもいいか、そう思った日没直前に不意によそ見していた元木のプラグに音もなく重みが乗る。

     そうしていただいた賜物が冒頭の魚だった。50cmには5mmほど足らないけれど十二分である。いろんな意味が込められた大事な魚だ。

     ユーザーのみんなに驚くほど釣ってもらっているNiva Rant DPで釣りたいのも山々だったのだけれど、この日は出来ることなら7月に発売のNiva L DPか、同じくウッドのSlapphappy Shad J Miniプロト、それに発売未定のプロトSlapphappy Shad J Grande、そのいずれかで釣りたかった。そんな風に思ってうまく釣れるほど優しくない琵琶湖なのだけれどこの日は違ったということ。Slapphappyシリーズはカミオカのバイトからもわかるように、琵琶湖では絶対の強さを誇るということもある。そう、この魚を連れて来たのはそのうちのSlapphappy Shad J Miniプロトだった。

     図らずも思わず「一匹釣って帰るのと帰らないのとでは気分が違いますよね」と言ったのは、俺より倍ほどチャンスのあったカミオカだった。不意の大雨にずぶ濡れになるも、たった1本の、しかしまさに賜物に、なんとも言えないありがたみを感じてフィールドを後にした。

     事務所に帰って、片付けをして、家に帰る道すがら歌ったのはOnly Love Can Break Your Heart。釣り好きだという高橋幸宏ヴァージョン。例のごとくカバーを探していたらニルス・ロフグレンと同時に見つけたもの。

     この人がニール・ヤングとは意外だったけれど、Buffalo Springfield(ニール・ヤング在籍。60年代後半わずか2年の活動期間ながらシーンに多くの影響を与えた)にはあのハッピーエンドも影響を受けたそうだから然もありなん。幸宏氏がニール・ヤングをカバーするなんてなんだか嬉しくて聴いてみたら、そこにまたも愛を感じてしまったというわけだ。そういう出会いもまた賜物。

一覧へ戻る