Tsunami Times

  • Are you Reservoir Dogs ?

     起きて、おもむろに重たい240のドアを開け、車を出たら、まだ漆黒の稜線の間からオリオンが妙にくっきりと覗いていた。そうだ、俺は七色に来ているのだった。前日の夕方から続いて今日はここで釣り。

     前日は仕事やそれから忌まわしいコロナ禍のせいで不健康にゾワゾワしているあの気分を、七色の景色と空気が少し拭ってくれた。温泉に入って、昇降場の駐車場で森本君とそれぞれがそれぞれの車で眠る。真っ暗闇の中、寝袋に潜り込むと、意識がここに溶け込んでいく気さえした。

     船の上で森本君が言う。「ルアーに魂吹き込むのは使い手ですよね」その通りだ。プラスチックかウッドかなんていうある種浅はかな信仰はそこにはない。どうもここにはそういう禅問答への答えが転がっているらしい。

     8月に死んだかつてのバンド仲間の、身内が執り行う法要が日曜にあった。俺にとってのその男は、心の片隅にスペースを取ってどっかと腰を下ろしているというよりは、ちょいちょい顔を出しては難儀な疑問を投げかける、そういう存在だった。死んだ今も同じ。(そう言えば、どこか不思議でオカルトめいたことを真顔で話す、そういうところがその男にはあった)だからあまり死んだと言う実感がないのかもしれないのだけれど、葬式に顔を出したらそれが少し実感として湧いてきた。

     やつがいつも投げかける禅問答も、ここなら解決するのではないかと思えるほど、なんだか熊野のこのレザボアは恐ろしく雄大である。その闇の部分には魔物だって棲んでいそうな迫力があって、畏れという意識をも思い起こさせてくれる。琵琶湖や淀川にはそれがないのか?というとそうではないのだけれど、都会にはない空気からはそれを容易にそしてリアリティをもって感じ取ることが出来る。

     例えば西表島で、そしてメキシコでも感じることの出来る、少年の頃、谷川で釣りに興じて、ふと気がつくと日が暮れかけていて、暗闇が谷間を飲み込みそうに迫っていた時の、恐怖ともちょっと違う、えも言われぬあの感覚。マングローブジャックやブラックバスの瞳の奥にも密かに宿っているそれを、感覚としてでなく実存として信じてみてもいいと思っている。

     それ見たさにここへやって来る、というのも答えとしてはあながち間違ってはいない。

     ここ何回か数年ぶりに七色に訪れて思うのは、かつては目に入らなかった景色が見えるということ。それは鮮明に網膜に映し出されて、そして着実に脳に伝達されていると感じる。それはなにも視覚に限ったことではない。歳を経た後にだけ、しかも釣りという行為を通してしか、見えないものだってある。

     釣りについては書くべきことがあまり見当たらない。つまりは今回も釣果はノーフィッシュ、オデコ、ボウズである。名誉のために言っておくと、図らずもガイド役となった森本君は1尾。自ら「小っちゃ」とはつぶやいていたものの、これは流石。

     彼の釣りスタイルを初めて見たけれど、これはなかなか興味深いものだった。これまで見て来た人のとはちょっと違う。使うルアーはもちろん、スタンスの取り方からキャスト、アクションの仕方に至るまでが面白い。そのスタイルにアジャストするのは、時折難しくもあったのだけれど、それはもう俺の不徳の致すところでもあるし、今回はフロントシートに座らせてもらっているのだし、それにそれを眺めるのがちょっと楽しくもあり、まるで苦にはならなかった。

     元木の釣りについてもう少しだけ詳しく書くならば、バイトはいくつかもらいました。そこそこデカそうなのも2度3度。同じ昇降場から前日に出たトップウォータープラッガー3艇はノーバイトだったのだそうで、ま、ほんの少しだけは面目躍如なのかもしれない。乗らないのはやっぱり活性が低めで食い切れていないということだと思う。もしくは少し深めから上がって来るためか。

     ちなみに目立ったバイトがあったのは確かビーバーに2度と、そしてSwing Geckoに2度。ビーバーはオールタイム信用に値すると自負するプラグなのだけれど、寒い時期のリザーバーで試してみたかったSwingシリーズには新たな可能性を感じた。ことにSwing Geckoには。

     さて、そんな釣れない七色のこの先には果たしてとびっきりの結果が待っているのか否か、釣れないなら釣れないでその向こうには一体何があるのか、覗いてみたいというのもここに行ってみたくなるもうひとつの理由。それがおそらく貯水池に集う痩せ我慢の不良たち=Reservoir Dogs (レザボアドッグス)の心理。

     この日のレザボアドッグス的出立ちは、予約受付中のコーチJKインナーベスト、それからオリジナル・エコフリース・ジップ・フーディ、その中には冬用のインナー、下半身は冬に愛用のエディバウアーのダウンオーバーオール(たぶん70’s。これは少々大袈裟でしたが)にオリジナルスウェットパンツ、中には同じく冬用インナー、頭にウールキャップ(寒くなったらボアワッチ)、足元にはソレル他。この季節にしてはちょい暖かだった両日、朝夕の冷えにもこれで十分だった、と言うよりは少々オーバースペック。

     コーチJKはこの価格にしてアウトドアブランドのシェルくらいの防風断熱性能は発揮するし、防水ではないものの水辺にはもってこいの耐水で、そして丈夫です。インナーベストは少々濡れても保温性能が落ちないし、ライトなのでレイヤーにももってこい。いずれもこれからの時期、フィールドに普段に重宝するはず。

     ロッドはTULALAの70と66のプロト、それからSukiyaki60H。リールはもちろんソニックマスター。

     70の方はほぼ完成形で、森本君曰く「長さを感じさせない」、5/8ozくらいから1.5ozくらいのプラグを快適にキャストそして繊細にアクションするに最適な仕上がり。66の方はそれより強め。これはこれでなしではないのだけれど、うちとTULALAがコラボして最初に出すトップウォーターのロッドとしては少々強過ぎて修正指示を出しているところ。いずれも来春から来夏のリリースに向けて鋭意調整中。

     ちなみにこれらの長さの表記はグリップ部分を含めるため、グリップ長をアバウトで換算するうちの場合より表記上は若干長くなる。TULALAの場合は標準でグリップがダブルハンドルに近く、そんなわけでブランク長は実質少し短い。70はうちの標準でおおよそ66=6ft 6inch、66はうちで言うなら63=6ft 3inch(というロッドはないけれど)くらいの長さになる。

     Sukiyaki 60Hは来るべき大物を意識してのチョイス。普通のリザーバーには少々オーバースペックかもしれない。キャストやアクションのフィーリングを楽しんで、かつ大物のファイトにも耐え、さらには比較的長めのディスタンスをとる、ということであればModerno 60やSukiyaki 60HFが適役。もしくはもっと竿を曲げてキャストやアクションのフィーリングを楽しみたいなら、SasugaやYabusameをチョイスももちろんあり。

     ジョンボートやカヤック、それからフローターで少し近めのディスタンスでオーバーハングに対策するなら、年末から年始にかけてリリース予定のSukiyaki 56Mや、56L、それから53LCにModerno 53HJがいいのではないかと思う。

     本日はブラッド・メルドー。彼の音楽は俺にはとてもスピリチュアルに響く。そもそも才能がある上にさらに研鑽を重ねると、畏怖にも似たあの感覚を代弁するかのような、研ぎ澄まされたものに昇華されるのでは、これを聴いているとそう思うのだ。

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