Tsunami Times

  • 8月の思い入れと2月の思い入れ

     月曜の朝がパティ・スミスで始まった。少々ヘビーだと自分でも思わないでもない。でも思いの外爽快である。

     先日のニック・ロウと同じで俺は彼女の熱心な追っかけではなく、この頃ようやく好きになれた。ボブ・ディランの代理で歌ったあれには御多分に洩れず心を奪われた。あれは懐の深さが窺い知れる出来事で、彼女を好きになるひとつのきっかけだったかもしれない。そういう具合だから、むしろニック・ロウより彼女の方が馴染みは薄い。

     彼女はパンクのことを「精神」だというような内容のことを述べていて、それはさもありなんだと思う。中島らもも「ロックは精神のありようだ」と言った。そういう真摯な姿勢、と言うのともちょっと違う、ありようのようなものがアーティストとして尊敬に値する。

     それはさておき、シゲ(ロットンの弟の方)からいつものように唐突なLINEが日曜の晩に。まあ、それは、彼は彼なりに俺のことに注視してくれていて、思うところあっての便りだとは思うが、俺にとっては降って沸いた思いつきのような感覚をもたらす。

    「オーガストいいですね!」

    の後に続くのは、彼の記憶。

    「2008年8月に一緒に釣りに行った際に、テストサンプルだったダーター(後のAugust)を借りて使ってたら、あっさり50アップが釣れてしまった。こうしてそのまま釣れた月の8月がその名前として採用された」のだそう。

     そう言われたら、そんな気がしてきた。時期的にも辻褄が合う。それから製作を進めたら、リリースは2月あたりになって不思議はない。そう、8月に釣れたからAugustなんだ。まるで抜け落ちていた記憶が甦る。ま、12年も経つのだからしょうがない。そんな他人のことを自分のことのように記憶している男の方が稀有と言えば稀有。

     同じの日の帰り道、テストに悪戦苦闘していた可動式のリップを持つライブリーの話をしてる時、車のステレオからスラップハッピーが流れる。シゲは言う「スラップハッピーって名前がいいですよねえ」。シゲによると、彼は単にそのバンド名について「いい」と言ったのに、俺は新作ルアーの名前のアイデアと勘違いして、「それええな」と話がすりかわり、のちにスラップハッピーがリリースされたんだ、とのこと。

     Augustに比べたら、まだスラップハッピーについてはおぼろげな記憶が残っている。ま、その後数年はスラップハッピーという名前が彼の提案だと勘違いしていたとはいうものの。

    「そんな記憶もあり個人的に、この2つのプラグにはとても情があります」だと。

     それにしてもちょいちょい重要な場面で顔を出す男というのはいるもんで、やつの場合がそうである。摩訶不思議。

    「今年こそ、久々に釣り行きましょう!」とシゲ。行きますとも。

     土曜日には病み上がりだというマニア君から、いつものようにAugustリリース前の応援投稿。「いつものように」ってとても難しい。それが2月ならなおさらだ。それをこともなげにやってのける男がこの人。しかもナイスサイズ×2とは毎度毎度驚き以外のなにものでもない。そうは思いませんか?

     タイトルは「真冬のオーガスト」。珍しくメールにタイトルが付いているところから並々ならぬ思いをそこから感じ取る。奇しくも同じAugustに真夏の8月に思い入れを持つ男と真冬の2月に思い入れを持つ男の揃い踏みとなった週末だった。

     そのAugustは鋭意製作進行中。果たして2月に間に合うのか。

一覧へ戻る