Tsunami Times

  • 12年に一度の2月のある日

     まことしやかに囁かれてきた、12年に一度2月のある日にリリースされるという、August = 8月という名のプラグの存在、それがどうやら現実味を帯びてきたらしい。

     トップウォーターの世界に限らず、釣りの世界は圧倒的に保守である。あえて悪く言ってしまえば、紛い物のパンクを生粋のパンクとあげたてまつるその精神と変わらない部分もないとは言えない。パンクだってものによってはコンサバ。単に先達をなぞるのなら、ドラスティックに見えても実はそうではない。

     たとえばニック・ロウは今もってパンクである。と言うか彼こそはパンクである。今でこそ物腰も柔らかなその歌声のその奥には往年のきっ先鋭いクールネスが垣間見える。だからこそ優しさも映える。

     いつだったか、ここで紹介した彼のミニアルバムが今日事務所で鳴った。それはなんだかするっと俺の心を捉える。芳醇な面持ちは彼が歩んできた道と今も変わらぬソウルの上に築かれている、そんな気がする。

     だからかつて持っていたはずのアルバムを含めてダウンロードできる限りをダウンロードした。便利な時代になったもんだ。ま、だからこそ取捨選択にセンスが必要だとも言えるけど。

     話は随分それてしまった。そのコンサバな釣りの世界にちょっとした改革をもたらしたのがトップウォーターの潮流だった。そこから踏み出せずにいるうちに今じゃいつの間にか保守が幅を利かせてしまっているというループに陥ってはいるけれど、かつてはそうだったし、今もその余地が残されているのがトップウォーターである。そこに日本独自の世界があるのはそのせいだ。

     だからTsunami Luresはそこで踏ん張れる限り踏ん張る。はみ出すことをものともせずに。ラディカルでスマートでニヒルなニック先生を見ていると、まるで俺にも道筋が見えたような気分になるから不思議。

     リファインして甦るAugustはあらためてその決意表明の象徴でありたいと思っている。何かと御託を並べてしまったけれど、つまりはAugustは2月リリースのつもりです。

     ところで、これはニーブーツ・キャリー。以前からオリジナルを作ることが出来ればと思っていたのだけれど、ひょんなことからこのサンプルが出来上がった。

     Reel Shellの縫製をしてもらっている工房のオーナーに「シューズバッグってどうですか?」と持ち出されたブツを見て、しばらくはピンとは来なかった。でも話すうち、これを「ブーツキャリーにしたらどうだろう?」というアイデアが浮かんだ。

     それを形にしたのがこれ。表側はコーデュラナイロン、裏側はPVCで止水ジッパー付き。ニーブーツでなくとも、苦慮していた雨の日の濡れたものを持ち帰るのにも便利かと思っている。

     さて、いくつか聴いた彼のアルバムは、やっぱりその歳を追うごとに落ち着きを見せる。2月のある日、盛夏を思い起こすように鳴る。それにしてもスピリットに衰えはない。それはまるでニール・ヤングのラディカルさにも迫るのではないかと思う。六十の足音を目の当たりにする俺が聴くに値する音楽であるとあらためて。熱心に彼のことを追いかけてきたとは言い難いけれど、今になって腑に落ちることだってあるわけで。

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